桑原翠邦は、〝現代書道の父〟と称される師・比田井天来翁の期待を一身に受け、その学書理論(古典筆法論)を敷衍すべく全国を巡り、その姿は『旅の書家』とも呼ばれました。全国を巡って残した作品は数十万点にのぼり、各地に数多く残されております。 書壇とは距離を取りながらも、卓抜した見識と高潔な人格は人々から慕われ、昭和四七年(六七歳)より平成七年(九〇歳)に逝去するまで二三年間に渡り、東宮御所書道御進講の栄誉に浴し、当時の皇太子殿下浩宮様(現天皇陛下)、礼宮様(現皇嗣殿下)、紀宮様(現黒田清子様)の書道学習の御進講に奉仕されました。 誰もが見惚れる驚異の筆さばきから生み出される作品は多彩で、含蓄と風韻を備え、書の古典名品が持つ健やかな強さを見事に蘇らせています。 この展覧会は未発表作を中心に翠邦の作品七〇点余りを展示。壮年期から晩年まで幅広い年代の作品を揃え、首尾一貫した古典への強い指向性と、また一方で微妙に変化していく翠邦の作風とを見出すことができます。書の高い境地をお楽しみ下さい。